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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(あ)2438号 判決 1952年12月19日

主文

原判決及び第一審判決を破棄する。

本件を和歌山地方裁判所に差戻す。

理由

第二審判決は一、仲田牧二の盗難被害顛末書一、司法巡査並びに検察事務官の仲田牧二に対する各供述調書一、司法警察員の宮野正に対する供述調書謄本一、検察事務官の荒井守三に対する供述調書謄本(及び他の二つの証拠)により被告人に対する判示犯罪事実を認定し、原判決も亦右第一審判決挙示の証拠によれば第一審判決の事実認定に誤りはないと判断している。然るに記録によれば第一審における訴訟手続の経過は弁護人池谷四郎の上告趣意第一点に主張するとおりであって、被告人は公訴事実を全面的に否認していることが認められる。然るに第一審裁判所は公訴事実を全部認めている弁護人(国選)に対してのみ、検察官申請の前記各書証の証拠調べ請求について意見を求め、その請求に異議がない旨の答弁を得た上直ちに右各書証の取り調べをしているのである(記録一〇、一二丁)。ところで本件のごとく被告人において全面的に公訴事実を否認し、弁護人のみがこれを認め、その主張を完全に異にしている場合においては、弁護人の前記答弁のみをもって、被告人が書証を証拠とすることに同意したものとはいえないのであるから、裁判所は弁護人とは別に被告人に対し、証拠調請求に対する意見及び書類を証拠とすることについての同意の有無を確かめなければならないものと解しなければならない。然らば、第一審裁判所が以上の手続を経ず弁護人の証拠調請求に異議がない旨の答弁だけで前記各書証を取り調べた上これを有罪認定の資料としたことは訴訟手続に違法があるものといわざるを得ない(なお本件において右各書証は刑訴三二一条乃至三二八条の規定により公判期日における供述にかえて書面を証拠とすることのできるいずれの場合にもあたらない)。しかもこれらの書面は第一審判決があげる有罪認定の資料としては極めて重要なものであるから、右の違法は同四一一条一号に該当するものというべくこの点において原判決及び第一審判決はとうてい破棄を免れない。

よって、被告人及び弁護人の上告論旨に対する判断を省略し、同四一三条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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